事業構想で、しくみ資産の構造設計、コンテンツ資産の指針設計、つながり資産の構築設計ができたならば次はいざ実践です。さて、実践にあたって、唐突ですが貴社の商品やサービスは何でできているのでしょうか。ビットとアトムのどちらでしょうか?
アトムとビット
2~3年前のWebマーケティングではECサイトやソフトウェアやアプリケーションなど、デジタルな商品やサービスが対象でした。しかし、マスメディアの1対多からインターネットの1対1のコミュニケーションへ、そしてSNSやクラウドコンピューティングサービスが発展し多対多のコミュニケーションが実現した今、手で触ることができる物体商品もしっかりとWebマーケティングの対象になりました。
Webマーケティングにおいて、デジタルの商品(以下;ビット商品)と物体の商品(以下;アトム商品)ではそれぞれ構造と実践のアプローチが違ってくるので注意が必要です。
ビットとアトムの商品について下記の図をご覧ください。
ビット商品とは、アプリや電子書籍などデジタル化してサーバ上で保管やコピーができる商品です。アトム商品とは、食べ物や楽器など物体で手にとって触ることができるものや学習やコンサルティングなど人間そのものが提供する商品も含まれます。
ビット商品の特徴は商品マスターがあれば複製に費用はかからず、保管するにもすべてサーバ上にあるということ。アトム商品の特徴は製造に数量分の費用がかかってしまい、商品保管にも倉庫が必要になるということです。
上記の図にあるとおり、ビット商品は告知から販売までWeb上で完結できますが、アトム商品は物なので、顧客にあるタイミングで試用体験(あるいは疑似体験)してもらう必要があります。
そして、顧客が貴社の商品価値を認めてお金との「交換」を実現した暁には、ビット商品はWeb上で自社のコミュニティを開設運用し、アトム商品はリアル(&Web)で自社のコミュニティを開設運用すること、これがこれからのWebマーケティングのポイントです。
このシリーズの第10回(貴社だけの経済共同体「Get Started to fit your Web Marketing」)でもご説明したとおりFacebookなどのSNSは基本的にクローズドで外国のようなものです。本質的には自社の顧客は自社が整えた環境でおもてなしするのが当然と言えましょう。
このように、貴社の事業がビット商品とアトムの商品のどちらなのかによって、構築するしくみ資産の考え方が変わってきます。
しかし、ビット商品であれ、アトム商品であれ、Webマーケティングに共通することもあります。それは“ロングテール、フリーミアム、シェア”というコンセプトです。
ロングテールは、どんなにニッチな商品であってもエッジが効いていればその商品を必要とする顧客がこの世の中のどこかに存在してWebマーケティングでつながることができるということ。
フリーミアムは、顧客に商品を体験したり試してもらったりファートタッチポイントの敷居を低くするために必須の考え方です。これはアトムの商品にも有効で、たとえば、食材を販売するためにレシピ集を無料で提供するという手法です。アトムの商品こそフリーミアムが有効なのです。
シェアは、これからのマーケティングでとても大切なことで、顧客一人一人がお気に入りの商品をWebで拡散してくれるようになりました。売りっぱなしではなく、顧客がファンでいてくれるような働きかけや顧客の要望を商品に反映して品質向上を継続すること、それを顧客が共有してくれる、このポジティブな循環をつくりましょう。
アトムとビットの商品に関するWebマーケティングは『メイカーズ』クリス・アンダーソン著(NHK出版)に詳しいので興味のある方はそちらもご参照ください1*。
何に共感して欲しいのか
貴社の商品やサービスに共感してもらうために重要なWebマーケティングの資産がコンテンツとつながりです。コンテンツ資産は、自社サイトのコンテンツ、ブログ、アプリ、ランディングページなどでつくります。つながり資産は、SEO、SNS、RSS、Web広告などでつくります。
量と質
コンテンツ資産とつながり資産には、それぞれ量と質のふたつの側面があります。
まずGoogleの検索で上位表示させる場合は、
●コンテンツ内に検索キーワードが含まれていること
●タイトル、H1タグなどにキーワードが適正に記載されていること
●コンテンツがロボットやプログラムではなく人間が制作していること
●サイトマップを含めコンテンツの存在がGoogleに豊富にインデックスされていることなどが最低限必要とされています。
Googleの「検索エンジン最適化スターターガイド」*2にもあるように、顧客が必要とする良質な情報に正確に素早くアクセスしてもらうことが重要です。そのためには、貴社の商品やサービスについて、わかりやすく誠実に面白く表現したコンテンツを様々な検索キーワードを入れて大量に制作しなければなりません。人気のあるキーワードで検索上位表示させるには最低でも1000ページ以上のコンテンツがインデックスされる必要がある、とも言われています。
そのようなことから、コンテンツの数量を増やすために自社サイトの構築にWordPressなどのCMS(Content Management System)を採用することが多くなっています。また、WordPressはレスポンシブデザインという、PCサイトをスマートフォン用に最適化表示させることもできるので、スマートフォン向けの顧客にも向いています。ただし、スマートフォンでのサイト表示に思ったよりも時間がかかってしまうということもあるので、導入に関してはプロフェッショナルの支援を仰ぐほうがよいでしょう。
※「レスポンスWebデザイン」参照
SEOによる集客→見て貰いたいコンテンツへ誘導→コンテンツで価値を理解してもらう→コンタクトへ。
このように貴社が顧客に行動して貰いたいストーリーに沿って流れをつくることになります。
その次にPCサイトとスマートフォンサイトやSNS、それぞれのトラフィックなどの実態と分析が必要になるのですが、それらを把握するためにはGoogle AnalyticsやGoogle Web Master Tool、Facebookページインサイトなどの解析ツールを利用します。
これらの流れを図式化すると下記のようになります。
Google Analyticsの導入と使い方については当ブログでも解説していますのでご参照ください。
※Google Analytics(グーグル アナリティクス)の使い方を学ぼう!
実用性と有意性
コンテンツの制作に関して留意すべきところは、「実用性(機能)」と「有意性(情緒)」です。多くのサイトが自社の商品やサービスの機能性と便益だけを文字だけで延々と記載していることが多いのですが、それでは顧客の共感を得ることは難しいでしょう。
現在の脳科学では、人間が共感や納得するためには感情が大きく影響していることが実証されているそうです*3。貴社のサービスや商品のよいところや価値をわかってもらうためには、感情に有意性を訴えることが大切です。見た瞬間に気持ちがいい、かっこいい、かわいい、これはいい、素敵と思えるデザインやビジュアル、タイトルやキャッチコピーにも貴社独自の文化やテイストをコンテンツに反映させましょう。
価値を納得してもらおう
日本には「おもてなし」の文化があります。リアルな店舗でも顧客が興味を持たれてお店に入ってこられたら、購入するしないにかかわらず、いい距離感を保って、顧客の興味の方向(欲望)を察しながら、余計なことを言わずにシンプルに会話をすすめる。このおもてなしの心はWebマーケティングでも応用しない手はありません。
顧客に商品やサービスをより深く理解してもらうには、商品を手にとって実際に使ってみて頂くのが効果を発揮します。特にアトムの商品の場合は、Webマーケティングでご縁を結んだ顧客をリアルな体験会やセミナーでおもてなしをすることが次なる「交換」というヤマ場に向けたステップとして大切になります。
Web上には、YouTubeやUSTREAMというフリーの動画サービスがあります。このサービスを利用してWeb上でセミナーや利用方法の解説コンテンツを提供することも顧客の理解を深める良い方法です。
最も効果的なのは貴社の社員ではなく、顧客がその商品の価値や使い方を動画サービスで紹介してくれること、何よりもこれが一番効果的です。もちろん、やらせや仕込みによる宣伝動画ではダメですが、顧客がみずから気に入って自主的に広めてくれる、そのためにも常日頃から顧客とのつながりと価値の共有に励み、自然と顧客にそのような行動をとってもらえるようにすることがマーケティンググレードを上げるための必要条件です。
価値を活かしてもらおう
事業をしていて一番嬉しいことは、顧客が商品やサービス、そこから生まれる価値を利用してくれて、顧客の生活や人生がより良くなることです。そのためには、このシリーズでお話させていただいたように、しくみ、コンテンツ、つながりの3つの資産に貴社ならではの一貫したストーリー(価値提供の信念)があること。
それが実現すればWebマーケティングにおける大切なヤマ場、貴社の商品と顧客のお金との「交換」に進展することは間違いありません。
顧客とのご縁を活かして「交換」を実現し、生涯顧客としてお付き合いいただくためには特別の関係を築き上げるための施策が必要です。
●会員専用コンテンツとメール
●自社コミュニティ
●リアルコミュニケーション
会員専用コンテンツは、特別な人にだけ贈るラブレターに等しいものです。会員の皆さんに喜んでもらえる情報を定期的に提供すること、これはフリーミアムの特別版といってもいいでしょう。これらのメディアやコンテンツの付加価値が高まれば高まるほど、それ自体が次なる事業の芽をつくりだす可能性もあります。
自社コミュニティはこれからのWebマーケティングを予測すると、必須であると言えましょう。すでにPayPalなどの決済サービスが様々なサイトやコミュニティで利用されつつあります。これからはどのような業界、業種、業態であれ、自社の顧客とコミュニティを中心とした“自社の経済圏(コミュニティ・コマース)”を築けることは間違いありません。
リアルコミュニケーションはWebマーケティングにおいても、最も大切な永遠のコンセプトです。ビット商品もアトム商品も利用する人は、かならずその良さを誰かに伝えたくなります。ファンだけが理解し合える感情の共有、これが貴社と顧客、顧客同士を固く永くつなぐことになります。そのようなリアルコミュニケーションのための環境と機会をつくる、それこそが貴社のマーケティンググレードを永遠に上げることになるのです。
*1:『メイカーズ』クリス・アンダーソン著
*2:Google「検索エンジン最適化スターターガイド」
*3:『デカルトの誤り 情動、理性、人間の脳』アントニオ・R・ダマシオ著
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