俺のフレンチと恭一郎のマーケティング

若い男女が連日押し寄せ大盛況の「俺のフレンチ」を創業者した坂本孝。知る人ぞ知る動画コンテンツで閲覧数10万回以上を超える作品を限りなく増殖させる恭一郎。このふたりを見つめると、そこにはマーケティングにおけるイノベーションの本質が見えてくるのです。

立って食え、俺のフレンチ

既に俺のフレンチを体験した人や、大繁盛のニュースに接した人たちがよく口にする言葉があります、それは「そういう手があったか」あるいは「やられたなあ」という感情です。

「商品がヒットする条件は、誰もが気づかない価値の創造だ」などというマーケッターもいますが、これはまったくの嘘です。誰も気づかず理解できないものは意味不明なのだからヒットするわけがありません。

皆さん御存知の通り俺のフレンチは一流シェフの料理を立って食べさせるというものです。一部店内に椅子席はありますが顧客の回転数を上げるために基本的に立食です。

面白いことに、立ち食いの発祥地は銀座で1971年にマクドナルドが1号店を開店しています(マクドナルドは歩きながら食べるというコンセプトでした)。俺のフレンチも1号店は銀座です、誰もが最も規制が厳しくうるさいであろうと思ってしまう場所を選んでいます。ここに坂本さんの意図があります。

ちなみに、俺のフレンチを体験した友人は「味もさることながら、接客サービスの良さに驚いた」と話をしてくれました。

出典:俺のフレンチオフィシャルサイトより→こちら

表に出(られ)ない大スター、恭一郎

一度見たら忘れられないもの凄い面妖さ、これが恭一郎さんの最大の魅力です。きっと初めて見た人は最初の数十秒は嫌悪感と違和感で正視できないでしょう。

しかし、それを超えて見続けさせる魅力が恭一郎さんにはあります、それではまずは動画をご覧ください。

デカイ体躯から発する声質と声量、絶妙にコントロールされた歌声、時勢を取り入れた感嘆の表現演出。別の動画では裸体でラブバラードを熱唱する恭一郎さんに「涙が出た」、「歌手本人より上手い」という大絶賛のコメントが多数書き込まれています。

しかし、彼は表には出てきません、出てこられないのです。でも、ライブイベントでは引っ張りだこでしょう、そして広告収入などを想定すると単なるフリーターとは呼べない領域にあります、でも彼は表には出られません。

でも、表に出られないからといってどうしょう、その表こそ一体何なのでしょうか。

イノベーションの本質

坂本さんと恭一郎さんのお二人に共通していることは、「タブーを越える」ということ。タブーとは社会において何をしてはならない、何をすべきであるという決まり事で、浄と穢れなどの対立構造と密接に関連しています。

俺のフレンチで言うならば「立って食べるのか、動物じゃないんだから」というタブーをどのように払拭するか、恭一郎さんで言うならば「社会に出て働いて、人の役に立てよ」というタブーをどのように乗り越えるかということです。

俺のフレンチの場合は、やっぱり美味しい料理とサービスでしょう、立ってでも食べたくなるような料理と接客。顧客に「こんなに美味しい料理と最高の接客が立ってなければ食べられないなんて、社会の経済構造のほうがオカシイんじゃないか?」という価値の転倒まで体験させてくれます。

恭一郎さんの場合は、まさに涙が出るぐらい笑える面白いパフォーマンス、涙が止まらなくなる歌唱力で歌い上げる心情。動画を見ている人に「お笑い芸人よりも面白い、この歌が上手いやつは、いったい何者なのだ?」という、表と裏の意識のあり方を省みさせてくれます。

俺のフレンチと恭一郎さんに共通すること、それは「感動」でタブーを越えるということです。そうです、今は使用価値と交換価値と並んで、「感動」が成果に結びつく価値の時代です。

マーケティングのイノベーションはタブーを越えた感動にある。

これは坂本さんと恭一郎さんだけができるコトなのでしょうか?いいえ、これはすべての人に開かれた普遍的なものだと思います。ではどのようにすればタブーを越えてイノベーションを実現できるのか…それはまたの機会に。

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