音楽を聴くのが趣味という方は多いのではないだろうか。PCを起動している間はiTunesを常に立ち上げているという人も、私の知る限り珍しいことではない。
音楽視聴という観点からいくと、PCは音楽をより身近なものにした。CDプレイヤーやレコードプレイヤーといった専用の機器が必須だった時代は終わり、PCが一台あれば事足りるようになったのだ。現在ではPCの他にもスマートデバイスをメインに音楽視聴をする人もいるだろう。
その視聴方法は主に5種類あると思う。1. CDから音楽を取り込む、2. iTunesなどのダウンロード販売を利用する、3. Youtubeなどの動画配信サイトでPVを見る、4. アップロードされた音楽ファイルをダウンロードする、5.が今回のメインとなる“パーソナルオンラインラジオで視聴する”だ。
パーソナルオンラインラジオとは何か?
パーソナルオンラインラジオの前に、オンラインラジオについて少し説明したいと思う。
オンラインラジオとは、ネットを通じて行われるラジオ配信である。「そのままじゃないか!」と思われる方もいるだろうが、実際そのままなのだ。
ネットを通じて行われるラジオ配信という言葉を、少し考えてみよう。
“ネットを通じて行われる”ということは、サーバー上にデータが蓄積するということだ。Googleなどは、ユーザーの行動を通じて統計データなどを取っている。ならば、ラジオ配信でも同じことができるのではないか?
この考えに至ったのが、パーソナルオンラインラジオである。つまりパーソナルオンラインラジオとは個人に最適化されたオンラインラジオのことだ。その代表的なサービスをいくつかあげると、Last.fm、Spotify、Pandora Radioがある。
ではこれらのサイトでは、どうやって“個人に最適化”しているのだろうか? その方法はとてもシンプルだ。最初にユーザーが好きなジャンルやアーティストを指定し、サイト側はそれに類似した曲を流す。あとはユーザーがその曲に対してLikeやBadをつけることで、統計を取っていく。その統計を積み上げることで“個人に最適化”される。
まさに、オンラインだからできることだ。
HypedMusic
今回紹介する「HypedMusic」の“個人最適化”はさらにシンプルな方法だ。ユーザーが指定した曲を再生できるのである。
HypedMusicの画面はこのようになっている。Facebookアカウントでログインできるので、登録の仕方は非常に簡単だ。
試しに、音楽を聴いてみよう。今回聴きたいと思うのはCarly Rae JepsenのCall Me Maybeだ。Search Musicから検索することで結果画面が出る。
同一人物の曲が複数出てくる理由は不明だが、それだけ人気があるのだろう。プレイリスト機能を利用することで、検索することなく再生することができる。
iPhoneとAndroid、両方ともにアプリをリリースしているようで、そちらも合わせて利用することで利便性が高まるだろう。
パーソナルオンラインラジオと今後の音楽業界について考える
私はパーソナルオンラインラジオが音楽業界に与える影響は少なくないと思う。
その理由はユーザーはCDに頼らず新たな音楽を発掘できるからだ。私は一時期某ロックバンドにハマっていた。マイブームはおよそ1年ほど続いたが、その時期には某ロックバンドの曲しか聴かなかったほどだ。その影響もあってか、今でもそのロックバンドと似た感じの曲が好きだ。
しかし、CDを買ったりレンタルすることは正直面倒に感じることが多いし、何より「コレジャナイ」と思う曲を引いたときのがっかり感は言葉に表せない。
そう思い始めた頃に、パーソナルオンラインラジオと出会った。Last.fmである。Last.fmを活用することで、好きな曲調の音楽をいくつも見つけることができた。オフラインだけではなし得ないことだ。
ただ、Last.fmは好きな曲を指定して再生することが難しい。そこで活用するもうひとつのパーソナルオンラインラジオがHypedMusicであり、Groovesharkである。この2つを組み合わせれば、好きな曲を発掘し、いつでも聴くことができるようになる。
Last.fmのように好きな音楽を発掘できるサービスと、HypedMusicのようにいつでも好きな音楽を聴けるサービスが組み合わさるとどうなるか?
それは“音楽を売る”というビジネスモデルの崩壊だと思う。ただ単に音楽を聴くだけなら、パーソナルオンラインラジオを使えば十分なのだ。規制をかけるという方法もあるが、「臭いものには蓋を」と同じ論理ではないだろうか。根本的な解決にはならないだろう。
では、どうやって解決すべきだろうか?
私はインターネット上で提供できない価値を売るビジネスモデルにシフトすべきだと考える。具体的にはライブや、ミュージシャンの関連グッズなどを売ることだ。すでに、このビジネスをうまく行っているグループがある。AKB48だ。商法については賛否が分かれるが、基本的にCD+“アルファ”の価値を提供している点については、学ぶべきことが多い。CDが目的で買う人もいるだろうが(そもそもAKB48はYoutubeでPVを公開しているから、その目的で買う人は少数ではないか)、ファンは“アルファ”の価値を求めている。
アルファの価値は、インターネットで提供することはできない。ライブは会場での感動をインターネット上で体験することはできないし、グッズも形を持っているから価値を持つ。AKB48の握手券だって、インターネットで体験することができない価値を提供している。
GroovesharkのCEO、タム・ランティーノ氏はevolver.fmの取材でこのように語っている。
Consumers are obviously willing to shell out for bands they love to see them live. And what that requires is free music to build these eyeballs up as much as possible. It’s not just music, either — it’s everything.
Old media thinks of things as restrictive. ‘How do we have a release date and not give anything until that release date? How do we not give everybody an exclusive?’ Whereas in the tech world, it’s always about scale: ‘How do we get this to as many people as possible?’ It’s a very different mindset that has created this clash between the old and the new.
※6 Reasons Grooveshark’s CEO Thinks Recorded Music Should Be Free
ユーザーはライブで聴きたいバンドに対してお金を払っている。そのチャンスを活かすには、ユーザーを惹き付けるための無料の音楽が必要だ。必要があれば、それ以外でも。
新しいサービスが出たとき既存のメディアは規制をかけることを、第一に考える。しかしICTの世界では「どうすれば、これを利用して多くの人にサービスを届けられるだろうか?」と考える。だから、既存のものと、新しいものは必ず衝突する。
私はこの主張に同意する。ユーザーはデータで感動したいのではない。生の体験で感動したいのだ。もちろん、よいと思ったものには十分なお金を払う。
だからそのための判断材料となる音楽が欲しい。その形式は無料か、有料のパーソナルオンラインラジオかは問わない。そこで出会った音楽をライブで聴いて対価を払う方が、CDというデータにお金を払うよりも、何倍も納得できるし、何よりミュージシャンの活動に貢献しているという気持ちも湧く。
すでに音楽業界の収益は落ちている。不況のせいもあるだろうが、ビジネスモデルを見直す時がきたのではないだろうか。音楽を聴くことが趣味である身としては、再興のために一考してもらいたい。
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