前回MVNOの解説をしたときに、MVNOはSIMフリー端末があってこそ真価を発揮すると書きました。
そこではざっくりと『通信事業者を自由に選んで好きな端末を使えるようにする』ことがSIMフリーと言いましたが、今回はそのSIMフリーについて解説していきます。
最初からSIMフリーの解説をしても分かりづらいと思いますので、日本のSIMフリーの歴史から追っていきましょう。
そもそもSIMとは
最初に、SIMについての説明を。SIMの正式名称はSubscriber Identity Module Cardと言います。電話番号など、識別情報について記録しているICカードです。このカードが無いと、携帯電話は電話として機能しません。もちろん、3G回線によるネットもできなくなります。
スマートフォンであればかろうじて(Wi-Fiで)ネットサーフィン用の端末として使うことができますが、フィーチャーフォン(ガラケー)では文字通り何もできません。
なので、一般に携帯電話を買うときは、端末と一緒にSIMカードの利用権を購入しているわけです。
しかし、ここにひとつ弊害があります。みなさん、iPhone5の価格ってご存知ですか? ソフトバンクやauは16GBであればSIMカードの利用権と合わせて実質0円で販売しています。
Expansys(エクスパンシス)という、携帯電話を販売しているECサイトがありますので、こちらの価格を見てみましょう。
http://www.expansys.jp/apple-iphone-5-lte-16gb-unlocked-black-236918/
7万5千円強と書いてありますね。ソフトバンクやauは実質0円販売しているのに、なぜこのような差ができるのでしょうか?
SIMロックと販売奨励金
その理由はSIMロックと販売奨励金や月賦割と呼ばれるものです。
まず、SIMロックから説明していきます。SIMロックとは簡単に言うと、端末に自社以外のSIMカードを読み込ませなくすることです。たとえば、ドコモがSIMロックをかけていた場合、auやソフトバンクのSIMカードが使えなくなります。
次に販売奨励金ですが、こちらはインセンティブ販売とも呼ばれます。携帯電話を販売するごとに、通信事業者が販売代理店(たとえばビッグカメラ)に対して奨励金を支払います。これが何を起こすかと言うと、販売代理店が携帯電話を格安(それこそ0円で)で売ったとしても、原価との差額を販売奨励金によって賄えるわけです。
ただし、これはユーザーが携帯電話を長期間使わないと利益が出ません。一定期間使うことを契約に盛り込んだり、携帯電話の通信料などに奨励金分が転嫁されて、利用料が非常に高額になってしまうなど、他にも様々な問題がありました。そこで総務省は2007年6月に、販売奨励金制度を段階的に廃止していきました。
ここで先ほどのExpansysで販売されているiPhoneと、ソフトバンクやauが販売している差額を見ていただきたいのですが、本来iPhoneを始めとするスマートフォンは高額なものなのです。しかし、それを無料で売っているソフトバンクやauなどの通信事業者は、販売奨励金に変わる新たな販売施策を打ち出しました。
それが月賦販売制度です。端末の料金を24ヶ月に分割して支払うという制度になります。ただし、この端末の料金は月々の使用料にある程度盛り込まれています。だからiPhone5の16GBを実質0円で販売できるわけです。
一方で、ユーザーが早々に機種変などをしてしまうと通信事業者が損をしてしまうことになります。そこでいわゆる2年縛りをかけて、違約金を設けることで、ユーザーの引き止めを可能にしました。
SIMロック解除
前述した通り、一般に多く販売されている携帯電話にはSIMロックがかかっています。そのため、他の通信事業者で使うことができません。
他の通信事業者で使うためには、このSIMロックを解除する必要があります。2年前に総務省がSIMロック解除に関するガイドラインを発表し、SIMロックの解除できる環境を作り始めています。
SIMロック解除に関するガイドライン:http://www.soumu.go.jp/main_content/000072467.pdf
実際にドコモが2011年4月以降に販売した端末は全てSIMロックを解除することができます。
SIMフリーとは
SIMロックを解除することで、通信事業者に縛られない携帯電話になります。文字通りSIMフリーとは『SIMロックがかかっておらず、自由に通信事業者を選ぶことができる状態』にある端末のことです。
また、Expansysで販売している携帯電話は基本的にSIMフリーになっています。なぜこのような端末が数多く流通しているかというと、日本と海外では携帯電話の販売する形式が違うからです。日本は通信事業者が携帯電話メーカーに出資して携帯電話を作ります。一方で海外では、携帯電話メーカーがSIMフリーの携帯電話をユーザーへ直接販売し、ユーザーがその端末を持って通信事業者と契約するというのが普通です(もちろん、SIMロックがかかっている端末もあります)。こうしたSIMフリーの端末を日本に輸入しているのがExpansysなどです。
ちなみに日本の携帯電話がガラパゴス(ガラケー)だと呼ばれるようになったのは、こうした販売形態が一因となっています。メーカーが通信事業者に出資され、ある程度その方針に従った上で携帯電話を開発していました。海外では、メーカーが自らマーケティングを行い、開発するのが普通です。そうすると機能を絞ったり、グローバル展開を見越した価格で開発することができます。日本の携帯電話がやたらと高性能だったり(これ自体は決して悪いことではありません)、価格競争やニーズの面で負けているのは、開発環境によるところが大きいでしょう。さらにもうひとつ雑学ですが、海外のスマートフォンの定義とは『eメールが使えること』だったりします。これはガラケーにキャリアメールとして標準搭載されていたものです。実は海外の定義によればガラケーってスマートフォンの仲間だったりします。
閑話休題、日本でもSIMフリー端末をドコモなどの通信事業者に持ち込むか、MVNOと契約することで使えるようになります。
こうしたSIMフリーのメリットを、総務省のガイドラインでは以下のようにユーザーの要望としてまとめています。
海外渡航時に渡航先の事業者のSIMカードを国内から持参した端末に差し込んで使用したい、携帯電話の番号ポータビリティ制度を利用して契約する事業者を変更する際にこれまでの端末を使用したいなど、携帯電話利用者(以下「利用者」という。)の中にはSIMロック解除に対する要望が存在するところである。
SIMフリー端末であれば、海外でもSIMカードを差し替えることで、現地の通信事業者の回線を使うことができます。また、SIMロックがかかっていないので、MVNOの回線を使うことも可能です。ちなみに私は、ExpansysでSIMフリー端末を購入し、MVNOの格安回線で運用しようと画策中だったりします(こういう時、あーでもないこーでもないって選んでるのが一番楽しかったりしますよね)。
SIMフリーのデメリット
一方で、SIMフリーにもデメリットがあります。
まず、通信事業者が展開しているデータ通信プラン(いわゆるパケ放題)はSIMロックによる安定的な収入が前提に組まれています。こうした前提条件が崩れることで、値上がりする可能性があります。
さらに、海外の携帯電話は周波数帯が日本に対応していない場合もあります。つまり買っても使えない可能性もあるというわけです。これは端末のスペックを見れば、大体は対応する周波数帯が記載されていますので、ある程度リテラシーがあれば回避できる事案です。
また、メーカーが直接販売しない限りは故障に対する保証がなされないという問題もあります。特にSIMフリーであれば携帯電話は高額なものも多いので、保証がないのは少し不安ですよね。
こうしたデメリットから、SIMロックが一概に悪いとは言えません。現在のような販売制度も絶対に必要だと思います。
ただ、将来的には日本の携帯電話メーカーのためにも、メーカーが自ら携帯電話を一から製作・販売し、ユーザー自らが通信事業者と契約する、という環境を整えて欲しいですね。